私のレッスンでは、消しゴムを使わない指導をしています。
もしも間違えたり、変になったりした時、子どもは咄嗟にすぐ消しゴムで消そうとしますが、私はそれを阻止します。そして指導では「消すことは、間違うことよりもよくないことなんだよ」と話しています。
ある時、ノートで聴音の書き取りをしていたときのこと。Aちゃんとしましょう。
Aちゃん、間違えている部分があったのですが、本人気づいていなかったので、ほんの少し背中を押してみようと声をかけました。「そこ、もう一度確かめてごらん」
Aちゃんは「あっ、そっか!」といって咄嗟に消しゴムに手が伸びました。
「わー ちょっと待ったぁ!」私は遮りました。
「そこ、消そうとしているけど、何がよくなくて、どう直そうと思ってる?」
尋ねると、Aちゃんはフリーズしてしまいました^^;
そう、Aちゃんはまだ何もわかっていないのに、ただ間違えたと思った部分を削除しようとしていたのです。しかも、Aちゃんが消そうとした部分は間違えてなどいませんでした。間違えていたのは、その隣に書いた音符だったのです。さらにまた、私は「間違えてるよ」とは言っていません。「確かめてごらん」と言っただけなのです。(声がけの言葉も意図して選んでいます)
これだけで、Aちゃんの心の動きと、それをどう行動に移しているかがお分かりいただけるでしょうか。
Aちゃんは、指摘されることや間違えることをやみくもに怖れているのです。まだ社会生活の浅い4~5歳の子どもでも、すでに「恥ずかしい」「カッコ悪い」「怖い」と思い、隠そうとするものなんですね。
さて、ここからが私の指導の出番です。
1.間違いは悪いことでもカッコ悪いことでもない
2.何がよくないのか、間違えたところを見て原因を考える
3.原因がわかったら、どうすればよくなるか、方法を考える
4.実践に移す
5.何度もやってみる
6.うまくいかないときには、別の方法もやってみる
7.うまく直せた!
↓
「失敗は成功の元」を体験!!
間違えても、ちゃんと後でやり直せる人がカッコイイ!
年齢や本人の習熟度によって、2.3.4.6.の部分で私が介入(=指導)します。いずれ、介入しなくても自宅で自力で出来るようになれば、その子は「音楽的自立」が完成しています。練習することで上達に近づいているのが実感できるので、練習が苦行から楽しさへ変化してきます。初めから練習をゲームをするかのように、難所をクリアすることを楽しめる子もいます。(私は子どもの頃このタイプだったと思われます)
あとになって「わぁ~私、こんな簡単なことを間違えてたのかぁ」って笑えるようになれば、その子はとっても成長していると思いますよ^^
ちなみに、2.3.4.6.で素人ママさんがママ先生になって介入してしまうと、横道にそれてしまう恐れがあり、軌道修正に大変時間がかかるのでご注意を!プロにお任せください。ご家庭に協力いただきたいのは、1.5.での励ましと楽器に向かえる環境づくり&タイムマネジメント、7.での共感です。
というわけで、間違えた部分は、改善策を考えるときの絶好の材料であり、克服したときの勲章になり得る部分なので、消すのは大変もったいないことなのです。
現実は、ここをクリアできずに、臭いモノに蓋をする思考からなかなか抜け出せない人が少なくありません。お母さんが知らず知らず蓋をしているケースもあります。いつまでも自分のマイナス面に蓋をしてしまっているので、だんだんそれがコンプレックスになり、練習から遠ざかりたくなってしまう。負のスパイラルに嵌っています。
これが習慣になったまま、小学校高学年、中学生以上になってしまうと、大変厄介になります。早いうちに克服させたいことの一つです。マイナスをプラスに転換する作業は、とてもエネルギーが要りますので、曲が簡単なうちに早く済ませましょう。
ですので、「音楽嫌いになってしまわないように… 」とわが子に合わせ過ぎるお母様がたまにいらっしゃいますが、これは逆効果。楽器を演奏する喜びから遠ざけています。ときにはライオンのお母さんみたいに強気で接していただけたらと思います。間違えても大丈夫、直せばよいのです(※)。子ども達の眠っているたくましさを信じてあげてください。
※だからといっていつまでも間違えてばかりなのはNGですよ!
それはただの甘えです。
克服を重ねるごとに力がつくので、
本来は間違いそのものが少なくなっているはずです。
よい意味での緊張感は持ちましょう。
いかがでしょうか。
消しゴム一つで、こんなに深いんです。何気なくやっているようでいて、私の教室ではかなりこだわっていることって結構あるのです。これはピアノに限らず、学校のお勉強にも使えますので試してみてくださいね。