私の教室では、入会するのに年齢ではなく「ひらがなが読めたら」という条件を目安にしています。
お問い合わせで一番多いのは、「ひらがなは読めませんが、こちら(大人)の話はわかっており、お話もよくできます。入会はムリですか?」「耳で聴いて、よく真似をして弾いていますがどうでしょうか?」というもの。
「早くわが子に音楽をさせてみたい!」と願うお母さんのご希望やご期待も分かるので、できるだけ体験レッスンはお受けしていますが、本当は「読める」ことと「聞き取れる」ことのあいだには、子どもの成長という観点で見ると、大きな違いがあるので、適正なタイミングとしては慎重になっていただきたいところなんです。
例えば、ト音記号とヘ音記号が書かれた2段の楽譜。
(「大譜表」といいます)
1段につき、何本の線があるかはご存知ですか?
5本あります。線と線のあいだは4つ。
小さな子は、これを正確に認識できません。
ただ「なんか、いっぱい線が書いてある」程度の
認識しか持っていません。
「なんか、いっぱい線がある」程度にしか認識していない子が、ここへさらに黒い玉がずらずらと並んでいても「なんか、黒いのがごちゃごちゃいっぱいある」としか思えないのです。
○番目の線のところに黒い玉があるのはミの音、○番目の線と○番目の線のあいだにある玉はラの音…と、頭の中で整理ができるということは、数的なしくみや法則を(子どもながらに)キャッチする能力が必要になってきます。これはかなり細かい脳の認識力と観察力が必要とされてきます。
眼球を動かしながら玉を追っていくわけですが、脳から近い距離にある眼球と周りの筋肉を動かすというのは、小さな子にとっては大変集中力の要る、疲れる作業となります。
よく「赤ちゃんを外へ連れ出してお散歩しましょう」と育児書にありますが、赤ちゃんは見慣れない外の風景を眼球を動かしながらキョロキョロすることによって、脳をフル稼働させていろいろなことを吸収しており、体を動かして運動していなくても大変疲れるんですね。このため、夜にはしっかり眠れますよ、と育児書などでは書かれているわけです。
こうした目の周りの筋肉を酷使しながら眼球を動かし、音符の玉の細かい位置を認識しながら「読む」ことが出来るのが、だいたい「ひらがなが読める」頃と合致しています。
【注】「見る」「眺める」ではなく、「読める」という表現にしていることにご注目ください。「読める」ということは、わずかな違いを認識できており、「見る」「眺める」といった受動的動作よりもさらに一歩進んだ、能動的動作になります。
▼ また、以下のひらがなをご覧ください。
「あ・お・め・の」というひらがなはパッと見、どれも丸っこくクルンとカーブしていて形が似ているので、ひらがながまだ読めない子どもは、違いを認識するのに少し時間がかかります。(字を覚え始めの子どもが、これらの字を書くのに苦戦しているのを見たことがあるお母さんもいるのでは?)
この細かい違いが認識できる知力や観察力が備わると、
「なんか、いっぱい線がある」
⇓⇓⇓
「上の段に5本、下の段に5本、線がある」
「なんか、黒いのがごちゃごちゃいっぱいある」
⇓⇓⇓
「線と、線と線の間とを、交互に(一定の法則をもって)書かれている」
・・・このように理解できるようになっていくのです。
私のレッスンでは、すぐに大譜表の楽譜からお渡しし、「読み」ながらピアノを弾く…という形態でスタートしているため、この「読める」作業が難なくできることが、入会の目安となっているわけなんです。
ですので、「耳で聞き取れる」だけの頃には、たっぷりよい音楽を聞かせてあげたり、リズムに合わせて踊ったり、音楽と存分に遊ばせてあげて欲しいのです。音楽を楽しむだけなら、必ずしもレッスンを受ける必要はなく、ご家庭で充分してあげられること。無理をしてモーツァルトやバッハを聞かせる必要もありません。ご両親のお好きな曲や、子どもが気に入っている曲をおうちの中で流してあげればよいのです。(ハードなメタル系はお勧めしませんが…笑)
レッスンを受けるのは、そのあとからでも充分間に合います。
最近は早期教育で1~3歳くらいからピアノを習わせるご家庭が増えてきましたが、私は反対です。
生活リズムもまだ整っていないうちから、母子分離も充分でないうちから、お稽古事をする必要は果たしてあるでしょうか。習い事に焦るよりも前に、子どもの生活リズムを整えてあげることの方が数倍大切。整っていなければ、お稽古事も続きません。本末転倒です。
この時期は、「お教室でお稽古」という形で専門性に任せるのではなく、生活の中でごく自然に、音楽を楽しんで欲しいと思っています。
お稽古事の先生をしていながら、なんだか矛盾したことを言っているようですが(笑)、たくさんのお母さんと子ども達を見ていて、子どものために本当に大切なことって何だろう?と常々思っている、ピアノの先生から、若いママさんへの提言です。